『世界経済危機日本の罪と罰』 野口悠紀雄著 200812月 ダイヤモンド社

 

 

昨年秋の米国発の金融破綻を引き金に、世界に広がった経済不況は、すでに半年を経過した。当初は、対岸の火事とばかりに米国経済の混乱を揶揄していた向きもある日本であるが、自らの経済の落ち込みは人ごとではなくなっている。

 

今年4月に国際通貨基金(IMF)が発表した世界経済見通しでは、2009年のGDP成長率は、米国が▲2.8%EUが▲4.2%、日本が▲6.2%と、日本の経済が一番落ち込むものと見ている。日本は自国経済に占める輸出依存度が先進国の中で最も高いことを考えれば、これはむべなるかなと言うことになる。

 

昨年末以降、経済危機に関する本は、かなりの数出版されているし、現在もまだまだ出続けている。この本が読みやすくわかりやすいのは、経済危機に関わる問題をうまく切り分け、それらを個別に解説している点であろう。野口氏は経済学者であるが、決して学術的な説明にならず、かつ世に数多くはびこるにわか経済評論家の書きぶりでもないので、読者に対して説得力を持ちつつ、飽きさせることがない。

 

この手の経済書には、アメリカの貪欲な利益至上主義が破綻した、あるいはアメリカ人の浪費主義が経済崩壊に至った、挙げ句の果てが、これからは日本的な「心のある」資本主義が世界に広がるべきであるといった内容のものも見られる。

 

しかし、この経済危機の実態は、そんな上滑りな話ではない。なぜアメリカで経済バブルが発生したのか、その原因としてアメリカ市場への余剰資金の流入があったこと、その一方で2000年代前半に人為的な円安により日本で経済バブルが発生していた、との彼の指摘はなかなか面白い。

 

野口氏らしく、世界経済危機が起きた中で日本の経済構造自体が大変革を求められているという主張、とりわけ今の円安を是正し、輸出依存型経済体質を脱却し、そして本来あるべき為替レート(おそらく80円くらいの水準であろう)で発展可能な経済モデルを作るべき、という提言は共感できる。

 

最後に、これからの資産運用をどうすべきか、という問いにも彼は答えている。当面、株式、投資信託、不動産、FX取引、どれも素人は手を出すべきではなさそうである。彼が最も勧める投資とは、金融投資ではなく教育投資である。自分自身に対してでも、子や孫への教育投資であってもよい。目から鱗、私も同感である。

 

 

この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の2009713日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>

 

 

 

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