日本航空再建問題(2009/09/26

 

民主党政権下で、日航再建問題への対応が抜本的に変わろうとしている。「JAL再生タスクフォース」の顔ぶれを見ると、すべて企業再生の専門家であり、実務という点から問題に切り込むと見られる。少なくとも、これまでの対応よりは、かなり現実的で、まともな取り組みになるだろう。

 

そもそも、日航に公的資金をつぎ込んで延命させることにどれだけの意味があるのかという点で、私は疑問を持っている。というよりも、日航を一度破綻させた上で、ゼロから立て直した方がよいと考えている。企業としてみた場合、日航が抱える問題の根本には、長期的に競争力を失ってきていることがあり、短期的な経済変動、とりわけ今回の経済危機、あるいは2000年代中からの燃料費の上昇がもたらしたものではない。ここ数年の経済変動や油価の上昇は、もともと企業体質に問題があった日航の経営にとどめを刺したにすぎない。日航と全日空の業績を比較してみれば一目瞭然である。2003年度以降、全日空はほぼ安定的に利益を出しているが、日航は赤字体質のままである(グラフ参照)。

 

日航は今期中に2500億円の資金を調達しなければならず、うち1500億円が11月末までに必要という。しかし、抜本的なリストラに取り組まない限り、同じことを繰り返すだけである。下手に公的資金を注ぎ込めば、国までが泥沼に引き込まれる。ある意味、日航は「ゾンビ企業」になっている。本来淘汰されるべき企業が、政府の恣意的な判断によって生きながらえてきたというのが実態である。とりわけその責任は国交省にある。国交省は国内で需要も見込めない空港を作り続け、それを維持するために日航に赤字路線の運行を押しつけてきた。これまで、日航が示していた国内路線の廃止案について、国交省が様々な形で反対してきたことはそれを物語る。

 

経営面からも「ゾンビ」の名に値する。日航は、かつては国有会社であり、未だに親方日の丸の体質である。それが解決できていない。労働問題は実に複雑で、会社側労働組合と七つの反会社側組合、機長、副操縦士、機関士、客室乗務員、地上職員が職制別のみならず、複数の対立する組合に属し、会社と交渉する。そのあおりを食らって、契約社員や外国人社員が低い賃金や不安定な労働条件で働くことになる。このような社員構成で、経営と社員が、あるいは社員同士が反目しあうのであれば、自ずと現場の士気は下がる。

 

日航の経営破綻は、詰まるところ、国交省の利権と組合の利権に翻弄される中で、客の利益を無視してきた結果である。私は、仕事がら一月ごとに海外と日本と行き来するが、日航はまず使わない。サービスは決してよくないし、かといって運賃が安いわけでもない。サービスの質で言えば、日航はシンガポール航空にとうてい及ばないし、全日空と比べても明らかに劣っている。値段で勝負するならば、ノースウェストやKLMは圧倒的に競争力がある(ただし、サービスの質はゆめゆめ期待してはいけない)。要するに中途半端で魅力がない。

 

ところで、巷にはフラッグキャリアーである日航をつぶしてはならないなどという、少々どころか、相当、時代錯誤な声も出ている。日本が貧しかった頃、あるいは途上国ならばいざ知らず、「おらが国にも航空会社があるぞ」などという時代はとうの昔に過ぎ去っている。政府要人も、海外に出かけるときには政府専用機を使っている。別に、日航が日本の名誉を背負っているわけではない。

 

しかも、このフラッグキャリアは土壇場で全く役に立たない。一言、一般庶民の立場で物言わせてもらうならば、古くはベトナム戦争、あるいはイラン・イラク戦争の時に、邦人脱出で現地の日本人を救ったのは欧州、米国、トルコの航空会社である。その当時、日航の組合が邦人救出に反対した理由が振るっている----「俺たちそんな危ないところには行かないよ」。

 

 

 

SY01265_古い出来事」目次に戻る。

 

door「ホームページ」に戻る。