自由貿易協定 (2011.10.20)

 

 

民主党内では、環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加を議論し始めたが、未だに入り口論でもたもたするだけで、先に進まない。野田首相は11月にハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場で交渉への参加を表明したい意向、と伝えられるものの、党内の意見が纏まるとはとても見えない。首相判断で見切り発車、参加表明するのか、今後もだらだらと問題を先送りし続けるのか全く分からないが、唯一明確なことは、残された時間はないという現実である。

 

日本の将来を考えれば、答えはすでに出ている。が、政治家にとって、農業、医療といった既得権者の票は相当重いと見える。農業団体の後押しでTPPへの反対を強く唱える「TPPを慎重に考える会」は党内で191名の署名を集め、もし、首相がAPECの場で交渉参加を表明すれば、民主党内が二分すると脅かしている。

 

こんな日本のもたつきを横目に、韓国はすでにEUとの自由貿易協定(FTA)を発効し、米国との間でも来年の1月にはFTAを発効する。1997年のアジア通貨危機当時、ある意味「どん底」にまで突き落とされた韓国は、国際経済を無視して自国だけで生き残れないことを身にしみて知った。それだけに、その後の韓国企業の動きは恐ろしく速かった。日本企業と競合する自動車や電気製品分野で、韓国企業はあっという間にグローバル企業としての地位とブランドを確保した。現代自動車はすでに世界のビッグ5に入り、日本の電機メーカーが束になってもサムソンが手にする利益に及ばない。韓国は、まさにグローバル化(地球化)の意味を示してくれた。

 

ところが、日本での議論は、未だに農業を守れ、食を守れ、である。かつてコメの部分開放を決めたとき、当時で6兆円という農業対策費を投じたが、全くの捨て金でしかなかった。あれから20年近くが過ぎようとしているのに、農業団体は未だに同じ発言を繰り返すだけで、何の進歩もない。つまり、6兆円を投じたものの、何の結果も出せなかった。またぞろ農業対策費を積み上げても、結局、同じことの繰り返しになるだけである。もっとも、今の政府に当時と同じ6兆円也の予算を確保できるとは思えないし、そんな金があるならば、震災の復興に使うべきと思うのは、私だけではあるまい。日本の農業に必要なのは、補助金のばらまきではなく、抜本的な改革である。

 

一方、TPPを支持する意見は、産業の空洞化阻止や輸出の維持である。が、これもすでに時遅しとも思える。電機メーカーを見れば分かるように、すでに生産拠点を海外に移しており、日本からの輸出はそれほど意味を持たない。日本がFTAを結ばなくとも、FTAを結んでいる地域に生産を移せばよいだけの話である。自動車は部品メーカーを含めれば、未だ日本の輸出を支えているが、直面する円高、電力供給の不安を考えれば、国内生産が縮小に追い込まれるのは目に見えている。必要な生産能力は、国内市場を賄うだけでよい。それどころか円高が今後も続くのであれば、海外の生産拠点から車を輸入した方が安く済む。

 

グローバル化が進む中で、需要地と生産地が一体化していくのは当たり前の話である。企業は、北米、中南米、EU、中国、ASEAN、南アジアと、各市場に適合した生産体制を整える。それぞれの企業のブランド力、品質管理、各競争力がものを言う世界であり、日本製であるかどうかは意味を持たない。アップルの製品を見れば明白である。部品は世界各国から集め、組立は中国である。消費者は「Designed by Apple」であることに価値を見いだすが、「Assembled in China」であることなど全く気にしない。

 

民主党がTPPの是非を議論するならば、日本生まれのグローバル企業が海外に出て行った後、国内にしがみつくしかない農業や医療分野に投入する補助金や赤字補填をどう賄うか、産業が逃げ出した後に残される雇用問題、つまり失業問題をどうするのか、テーマを絞った方がよほど賢い。しかしながら、日本と世界経済の一体化を否定する以上、その答は絶対にない。

 

要するに、民主党の議員にとっては、日本の将来より、「農業票」の方がはるかに心配という話でしかない。

 

 

 

 

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