『変わる中国「草の根」の現場を訪ねて』 麻生晴一カ著 20141月 潮出版社

 

 

 中国に市民運動があるとは、日本の一般人の常識からすれば、意外な話である。日本に住む我々の感覚からすれば、中国国内で民主化と言った途端、警察に引っ張られ、ウェブ上で民主化という文字が当局によって次から次枝と消し去られている現状からすれば、ちょっと信じられないような話である。

 

 中国は、高圧的かつ独善的な姿勢と行動ゆえに、他国との間でいろいろと問題を起こしているが、実は内政でも同じである。農村部と都市部との貧富の差は大きく、とりわけ地方の貧しい庶民は政府によって虐げられ続けてきた。戸籍、保険、年金、全てについて大きな差別が存在する。加えて、地方政府の役人による汚職や土地の搾取は、政治的に相当危険をはらむ問題と成りつつある。

 

 多くの庶民にとって、世の中とは依然として過去3000年の中国の歴史の延長上にあるのだろう。つまり、世を治めるものは天子であり、下々はお上の指図通りしにしか生きられない。現在と昔の違いは、天子が共産党に変わっただけである。

 

そんな中にも、政府に頼れないのであれば自分たちでやっていこうという人達がいる。自分たちで人権を守らなければ、いつまで経っても人権を侵害されたままで泣き寝入りし続けることになる。人権とは自分たちで勝ち取るものなのだ。そんな行動に出る人が、少しずつであるがあちらこちらに現れて来ている。

 

 これは、ボランティアや非政府系NGO(つまり、役人の御用達ではない純粋なNGO)といった、少数派ではあるが草の根的に社会を変えようと行動する人達への取材を纏めたドキュメンタリーである。

 

腐敗に怒った住民が村長を追い出し、住民の手で選挙を実施するという例まで出てきている。中国が如何に共産党一党独裁の官僚社会であり、警察力で庶民を抑えようとしても、不満を口にして行動する庶民の数が手に負えないほど膨れあがれば、政府としても認めざるを得ないという現象は現実に起きつつある。

 

現在、中国政府は政治的に微妙な動きについてますます規制を強化しているが、これは庶民の不満が少しずつではあるがマグマ溜まりのように膨れあがりつつあることの現れなのかもしれない。

 

 

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